国や自治体からは、家屋に対する工事への補助金が多く用意されています。解体や建替え工事に対してはもちろん、建物の耐震工事を対象とした補助金を設定している自治体も、全国には数多くあります。
今回はこの「耐震工事」について、特に絞って解説していきます。
建替えや耐震に関する自治体からの補助金
なぜ補助金が用意されているのか
近年、日本全国で「空き家問題」が深刻化しています。老朽化して放置された空き家の数が増加しているのです。
空き家の放置は、景観や治安の悪化なども引き起こす可能性があるため、所有者個人だけではなく国や自治体も挙げての解決をはかる問題となっています。
そのための方法のひとつとして用意されているのが、補助金の支給です。
どんな補助金があるのか
自治体が用意する「家屋に対する工事を対象とした補助金」にはさまざまなものがあり、内容や範囲も差異が大きいのですが、基本的には「空き家や老朽化した危険家屋を解体・建替えする際の補助金」や「耐震性に問題がある木造家屋に対する耐震診断・改修工事への補助金」といったものが多くなっています。
具体的には、
・老朽危険空き家解体補助金
・木造住宅解体補助金
・危険ブロック塀撤去・改修補助金
・耐震診断・改修補助金
・建替え工事補助金
というようなものがあります。
建替えではなく今の住まいを補強するために
現在の老朽化した家屋を今後どうしていくか、ということを考えたときに、解体して新しく建替えするという選択肢だけではなく、リフォームや耐震化をはかって新しく生まれ変わらせるという方法もあります。
建物の耐震工事に対しても、補助金を用意している自治体は多くあります。
今回はこの耐震工事にクローズアップして、その内容や対象、費用目安や補助金について確認していきましょう。
耐震工事とは?
地震対策にはどのようなものがあるか
一口に「地震に強い住宅にする工事」といっても、実は「耐震」「免震」「制震」という3つの考え方があります。
耐震工事
建物自体の強度を上げて損傷や倒壊を防ぎ、地震の揺れに耐えられるようにする工事です。地盤や立地によって工事のできる・できないがないうえ、比較的安価で簡単なため、もっとも手軽な地震対策工事となるものです。
建物を支える柱や壁などを補強したり、耐震壁を増やしたりといったことが行われます。
ただし、建物自体が地震のエネルギーを受け止めるため、ダメージが蓄積していくというのが弱点です。また、建物上部ほど揺れが大きくなるという特徴もあります。
免震工事
地震の揺れが建物に伝わらないようにする工事です。基礎と建物の間に免震装置を設置して地盤からの切り離し、揺れを受け流して直接建物に伝えにくくするのです。
建物自体のみならず、建物内部のダメージも防ぐことができます。
地盤から浮いているような状態になるため強風で揺れることがあったり、また設置も維持もコストが高めだったりというところが弱点です。定期的なメンテナンスが必要でもあり、耐震工事よりも歴史が浅いため、耐用年数や技術面においてまだ実証や実績がこころもとない部分もあります。
制震工事
地震の揺れを吸収する工事です。建物内部の外壁と内壁の間にダンパーやおもりといった制震装置を入れて揺れを吸収し、建物本体へのダメージを軽減します。
免震工事よりはコストがかからず、また制約も少ないのですが、それでも耐震工事よりは高くつくこと、間取りに制限が出ること、狭小地には不向き、地盤が弱いところでは導入できない、といった弱点があります。
それぞれの工事にはメリット・デメリットがあるのですが、現在日本でもっとも主流となっているのが耐震工事です。次項からは主に耐震工事についての内容となります。
旧耐震基準と新耐震基準の違い
旧耐震基準とは、1950年に施行され1981年5月31日までに建築確認申請承認が行われて建てられた建築物に適用されていた耐震基準です。
基準の内容は「中規模の地震(震度5強程度)に対して、家屋が倒壊・崩壊しない」というもので、震度6以上のさらに大きな地震に対しては想定されていませんでした。
それに対して、1981年6月以降の建築物は新耐震基準で建てられています。こちらは「中程度(震度5強程度)の揺れで、家屋がほとんど損傷しない」「震度6以上でも倒壊はしない」という基準となっていて、大規模地震も想定された内容に改良されました。
この新耐震基準は、1978年(昭和53年)に発生した宮城県沖地震による大きな被害を背景に規定されています。
このあとも、1995年に発生した阪神淡路大震災の被害をもとに、2000年にもさらに厳しい基準ができています。それによって、基礎の設計の細かい点や、基礎と柱の接合部への金具の取り付け、耐力壁の配置バランスなどについて明記されました。
耐震工事の対象となる建物
具体的に「耐震工事をした方がいい建物」とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
1981年以前に建てられた建物
前述したように、耐震基準が改められた年が1981年であるため、それ以前に建てられた建物は耐震性が低いものが多いといえます。もちろん耐震性が高い建物もなかには存在するので、必ずしも1981年以前の建築物ばかりが危険性が高いとはいえませんが、ひとつの目安にはなるでしょう。
このような建物は、自治体による耐震診断・改修の補助金の対象になることが多いため、まずは確認してみるといいでしょう。
過去の地震でダメージを受けている建物
近年は大規模な地震が頻発しており、現在外見に問題のなさそうな建物であっても過去に大きな地震を経験しているものであれば、内部構造にダメージを受けている場合があります。
このような建物は、次に大きな地震が来たときに深刻な被害を受ける可能性があるため、注意が必要です。まずは耐震診断を受けてみることを検討するといいでしょう。
欠陥・弱点のある木造建築物
前述したように、新耐震基準は2000年にさらに改正されていて、木造住宅における弱点を見直したうえでの構造規定が強化されました。
具体的には、
・地盤の弱いところに存在している
・1階部分の壁面積が少ない
・吹き抜けがある
このような木造住宅は建物のバランスが悪く、地震の揺れによってゆがんだり倒壊したりする危険性が高い建物といえます。
耐震工事の種類
耐震工事と一言でいっても、どこに弱点が大きく存在しているかで工事の内容や工法が変わってきます。
・基礎の補強工事
・壁の補強工事
・接合部の補強工事
・屋根の軽量化工事
などのようなものが挙げられ、どのような内容の工事になるかは、まず耐震診断を受けたうえでの判断になるでしょう。
耐震工事の費用相場
全体的に補強を施した場合の耐震工事の費用相場は、150万円前後といわれています。
もちろん建物の築年数や工事の規模によっても大きく異なるところではあります。築年数が進んでいる古い建物であれば200万円程度かかることもありますし、小規模な工事であれば10万円で済む工事もあれば、相当に大規模な工事であれば1,000万円程度になることもあるでしょう。
前述したように、外から見ただけではわからないこともたくさんあります。まずは耐震診断を受け、どの範囲でどの程度の工事が必要かということを確認するといいですね。
耐震補強工事の補助金
まずは耐震診断を受けよう
何度か述べている通り、耐震工事を依頼する前にまずは家屋のどこに工事を施すべきかを詳しく知るために、耐震診断を受けることになります。
補助金を支給する自治体からも、診断結果を求められることがほとんどで、その診断結果から工事の必要性を判断し、補助金の支給要件に合うかどうかも見られます。
自治体からの耐震工事補助金
全国の多くの自治体で耐震工事への補助金が用意されていますが、交付金額や申請条件については、自治体によって大きく差があるところです。まずは要件を満たしているかどうか、どれくらいの補助をしてもらえるのかどうかなどを、お住いのホームページで確認しておくといいでしょう。
また、一定の条件を満たすことで、国からも所得税や固定資産税の減税を受けることができたり、住宅金融支援機構からも1,500万円を限度額として融資を受けられたりします。こういった制度をうまく活用することで、費用負担を大きく抑えながら住宅の耐震化をはかることも可能になるでしょう。
まとめ
住宅の耐震性に不安があって建替えを検討するなら、まずは耐震化工事も視野に入れてみてはいかがでしょうか。補助金を活用すれば、大幅に費用を抑えて住みよい安心なお住いに生まれ変わらせることもできるかもしれませんよ。